マネージャーに贈る十章

証券会社の若手営業マンから突然、電話があった。
「リクルートのご出身ですよね?上場、興味ありませんか?」

~OBリストか何か、あるんですか?~
「いえ、リクルート出身の方をネットで探しました」

株式投資に興味があるというよりは、
ネットで地道に検索をしてアポイントをとっているという彼に
興味が湧いて訪問を受けた。

N証券の営業マンの武勇伝は、よく聞いた。
いわく、「なんとか時間を!と、江副さんの車に同乗し、移動途中の5分で
プレゼンをした。営業かくあるべし、と江副さんが、いたく感激していた」
「どこぞの王子様の接待に、1ヶ月張り付きの営業マンがいた」などなど。

激しい仕事を乗り越えてこその営業ダマシイに、営業1年目の私は、
恐れおののくとともに、なんだか憧れたものだ。

・・・・今、目の前にいる彼は、ひたすら爽やかだ。

「朝田さんは、江副さんを直接ご存知なんですか?」
入社時、スタッフ部門だった私は、
フロアをフラフラ歩いている 江副さんによく出会った。
小柄で穏やかな人というイメージだった。

彼と話すうちに、改めて「リクルート社」という環境を思い起こした。
よく「宗教」と言われたが、宗教的なほど「リクルート的な風土」は強かった。
今から思えば「ブラック的」といえるような、
厳しい要望が出され、厳しい行動が求められた。

 

たとえば以下は、私の体験した実話だ。
時代もあった。(一人暮らしの貧乏もあった・笑)

・新人出社の朝、先輩たちは床で爆睡
・ 毎日100軒のビル倒し
・ 炎天下の営業から戻りトイレで吐く日々
・ ビキニで営業するのがミッションだ!
・ 残業続き、台所に頭をつっこみ髪を洗う

でも、ウツにもならず、やめずに頑張れたのは何故なんだろう。

 

江副さんが語った「マネージャーに贈る十章」という言葉がある。

リクルート社をやめてから知った言葉だが、
ハッとさせられる言葉なので、お客さんと話をする際に、
よく引用させてもらう。

 

2番目から10番目までは、以下になる。

ニ、ネットワークで仕事をすること

三、高い給与水準

四、人は仕事を通じて学ぶ

五、プレイングマネージャー

六、まず周囲に自らを語ること

七、数字に強いこと

八、努力の継続

九、脅威と思われる事態の中に隠された発展の機会がある

十、リクルートは社会とともにある

これは、これで「リクルートのマネージャーかくあるべし」
という感覚があり、好きな言葉だ。

 

が、なんといっても1番目にシビレる。
外でクイズにしてみても、この言葉を当てる人はいない。

いわく、
一、希望・勇気・愛情

合理的でも、功利的でもない、青臭いくらいの言葉だ。
でも、初めてこの言葉に触れたときには、心から感謝の念が湧いた。

「私は、こうした教えを受けたマネージャーたちに、育ててもらったんだ」。
どんなに失敗をしても、どんなにくじけても、背中を押し、
前を向かせてくれた先輩たち。

先輩も上司も、皆、笑って前を見ていた。
そして背中を見せてくれた。
「為さざる罪を問う」をリクルートのモットーとする。

高い成果の追求のために、人への思いやりを失えば、
やがて周囲の人から敬遠されていく。

 

希望と勇気を持て。愛情を忘れるな。

 

古くても錆びない言葉だ。

 

証券会社の彼が置いていったのは、
分厚い目論見書と、申込用紙の一式。

 

リクルート社が10月16日上場する。
喜ばしいような、自分たちの手を離れてしまうような複雑な気持ちだ。