新橋の駅前を、泣きながら歩いた朝

12年前の朝 7時。

新橋にオフィスのあるマイコーチのもとへ、
私は、ある決心をして向かった。
今日のゴールは、ただ一つ。

「会社への気持ちにケリをつける。次を生きるために」

 

 

当時、私は、あるベンチャーの役員をやっていた。

 

強くて魅力的なボスのもと、
やったことのない事業を、素人ばかりのメンバーで
動かそうと必死だった。

 

それこそ、24時間働けますか!? の世界。

 

今から思えば、役員とは名ばかりで、
結果も出せず、周囲も巻き込めず、
ぐちゃぐちゃな状態だった。

 

たった10人ほどの社員なのに、
指示をすれば、嫌そうな顔をしてノロノロ動く。
会議となれば「反省会」という名の「あげつらい合戦」。
毎日、背中から刺されるような感覚。

 

なんで、みんな仕事しないんだろう。
私は、こんなに頑張っているのに。。。。

 

給湯室には、いつもカゲグチの匂いが充満していた。
本当にイジワルで、嫌な組織だった。

 

 

ある日、疲れ切って帰った私に、中学生だった息子が一言。
「母さん、会社やめたら?・・・死んじゃうよ」。

 彼なりに、よほど私の様子を見かねたのだろう、
後にも先にも、私の仕事に何かを言ったのは、この時だけだ。

 

 

ある日、買ってくれていると思っていたボスに、
「あなたがメンバーに謝るべき」と言われ、
何かがポキっと折れた。

 

ある日、少しは私に優しいメンバーに、
「朝田さんも、そろそろ辞め時ですかね」と言われ、
もうここまでだと、心がポキっと折れた。

 

 

もう辞めよう。
でも、何も結果を出さず、負けるようにやめていくのは、
あまりに自分が情けなく許せなかった。

  

そして、くだんの、新橋・朝・7時。

 

コーチの問い「しのちゃん、今、何があるの?」
私は、「今」を見れなかった。
でも、コーチは「しのちゃん、今、何があるの?」と。
何も考えられず、しょうがないから、じっと白い壁をみていた。

 

何分経ったろう。
 

突然、チョロチョロと、1匹のネズミが現れた。
「え? ネズミ?」
ネズミは何か必死で走り回り、
そのうち自分のしっぽを追いかけて、クルクル高速回転しはじめた。

 

ピンときた。
「あ、このネズミ、私だ!」

 見つめているうちに、わかってきた。
「そうか、ネズミはネズミなりに頑張ってたんだ」
涙があふれ、頭が弛緩した瞬間に、数匹のネズミが出てきた。


数匹のネズミは、あちらこちらに脈絡なく走り回っている。
一生懸命だ。
でも、脈絡のない動きだ。

 

「・・・そうか、あの子たちも、一生懸命だったんだ」
私が必死だったように、メンバーも必死だったんだ。
どうしていいか、わからなかっただけなんだ。。。。

 

それまでの張りつめた気持ちが、一気にほどけ、
素直に、自分がやめることを許せる気持ちになった。
気持ちにスッとケリがついた。

  

コーチのオフィスを出て、新橋の駅前を
ぼろぼろ泣きながら歩いた。

駅からの出勤途中の人には、ずいぶん妙な人に映ったろう。

 

その足で会社に出た。
涙はもちろん拭いた。
その日は、毎週の会議、いわゆる「反省会」だった。 

頭が弛緩して、何も考えられない私の口から出た言葉は、
「みんな、昨日はお疲れさまだったね」。。。


すると、いつも反抗的な男性メンバーが
「昨日は、僕の誘導が良くなくて、皆に迷惑かけちゃって・・・」
もう一人の、不満しか言わない女性メンバーが
「あ、私も、昨日は受付、ミスしちゃって・・・すみませんでした」

 

空気が、一瞬にしてほどける。

え? 急にどうしたの?
いつもの反省会じゃない!!!

 

会社をやめることを決めた朝に、
知らなかったメンバーの顔を見ることになった。

 

本当は、一人一人はいいヤツだったんだ。

 

その後、私は自分の会社を作り、
「組織へのコーチング」に出会い、
人間関係の妙を学びつづけている。